平成19年10月30日 参議院農林水産委員会

「農業者戸別所得補償法案」趣旨説明

ただいま議題となりました農業者戸別所得補償法案につきまして、その提案の趣旨及び内容の概要を御説明申し上げます。

去る七月の参議院通常選挙において、我々民主党は、農業政策では、「戸別所得補償制度」の創設を唱え、多くの方々から御賛同をいただきました。

経営の規模、年齢にかかわりなく、意欲を持って取り組む農業者に対し、主要農産物を対象として、農業の再生産の確保に資するため、その生産費と販売価格の差を基本とした補てんを行い、その所得を補償し、農業の再生産の確保、著しく低下した食料自給率の向上、農業・農村の維持・発展を目指すものであります。

政府は、本年四月から「戦後農政の大転換」と称して「品目横断的経営安定対策」を導入しました。これは、経営の規模によって、国が支援する農業者を選別するという究極の選別政策であります。特定の経営体だけが農業の担い手であるとの認識のもと、農業の構造転換を性急に押し進めようとするものであり、財政効率だけを優先させた政策といっても過言ではありません。

言うまでもなく、農村は専業農家、兼業農家、大規模農家、小規模農家など多様な形態の農業者と、非農家とが混在して構成されています。そして、国民の生活意識が変わりつつある中、自分たちのことは自分でやる、助け合ってやる、という伝統的な自治機能を、なお色濃く残している地域であります。

さらに、農業・農村は、食料の生産だけでなく、国土や自然環境の保全や地域社会そのものの形成など、多面的な役割を担っております。まさしく、私たち国民の共有の財産である「ふるさと」を守る大切な役割を担っているのが農業・農村であります。農業・農村の担っているこうした多様な役割は、そこに住み生活する様々な農業者が担っているのであり、政府が施策を集中させようとしている特定の経営体だけでは果たすことはできません。

特定の経営体の育成だけを優先させる政策ではなく、地域として、あるいは集落として農業の振興を図っていく、まさに農業と農村振興とが一体となった政策こそが、農業再生・地域再生の鍵であると民主党は考えています。 事実、これまでの農政も、集落の自治機能を前提とし、制度が組み立てられてきました。現行の米の需給調整などはその典型です。集団転作などの農地の利用調整も農家間の自主的な調整が不可欠です。

一方、同時に、農村、特にも中山間地域の農村が、大きな岐路に立っている現実も直視しなければなりません。 基幹的農業従事者の六割は六十五歳以上です。日本の農業、農村は元気な高齢者の方々によって支えられています。しかし、いつまでも、高齢者に地域の農業を任せられるわけではありません。わが国が、人口減少社会に入っているということも充分考慮に入れる必要があります。政府が進めてきた効率や採算偏重の政策のしわ寄せが、農村に押し寄せていることも見逃してはなりません。このままでは農業の構造改革が進むより先に、農業の生産基盤そのものの崩壊が先に進んでしまいます。 こうした政府の政策を是正するとともに、現実に適応した、地域主体のしっかりとした農業振興への取り組みがされなければなりません。

必要なことは、国が画一的に、「特定の経営体や営農組織を構築しろ」、といった押しつけ型の政策を進めることではありません。 生産に取り組んでいる方々が、こぞって参加して地域の農業、農村の将来を考え、行動してもらうことが必要です。その枠組の中からこそ、実態に即した農地の流動化、生産の組織化といった取り組みが始まらなければなりません。 このためにも、農業に取り組んでいる方々はその規模、形態にかかわらず全て担い手と位置づけることが必要です。 小規模ながらも、赤字覚悟の高齢農業者の「とにかく耕作しなければならん。」との、義務感ともいえる意欲は、主作物である米価が下落基調にあり、農業を辞めれば耕作する人がいなくなるという危機的状況の中、大切にする必要があります。

また、わが国の食料自給率は、平成十二年に食料・農業・農村基本計画を策定して以来全く向上していません。昨年、カロリーベースで三九%と、ついに四〇%を割ってしまいました。また、世界の人口の増加による食料需要の増加、バイオ燃料用としての新たな需要の発生、地球温暖化、水資源の不足といった大規模な環境変化等により、世界的な食料供給の逼迫が懸念されております。さらに、輸入農産物に対する安全性への不安も国民の間に高まっております。 食料の安全保障、そして安全性の観点から、食料の国内生産の確保は喫緊の課題であります。自給率の低い作物を中心として、生産振興を今まで以上に積極的に進めていく必要があります。

国民が安心して質の高い食生活を送ることができるよう、国内で安全な農産物を安定供給する仕組みを充実していかなければなりません。その前提条件として、意欲をもった農業者が安心して生産に取り組むとともに、迎えつつある農村の変化に対応した地域主体の地域農業を確立していただくことが必要であると考え、本法案を提出した次第であります。

以下、この法案の主な内容につきまして御説明申し上げます。

第一に、この法律は、食料の相当部分を輸入に依存する我が国においては、食料の安定的な供給及び安全性の確保の観点から食料の国内生産の確保が緊要な課題であることにかんがみ、農業者戸別所得補償金を交付することにより、食料の国内生産の確保及び農業者の経営の安定を図り、もって食料自給率の向上並びに地域社会の維持及び活性化その他の農業の有する多面的機能の確保に資することを目的としております。

第二に、この法律において「主要農産物」とは、米、麦、大豆その他この法律の目的の達成に資するものとして政令で定める農産物としております。

第三に、国、都道府県及び市町村は、毎年、農業者の意向を踏まえ、相互に連携して、それぞれ、主要農産物の種類ごとに生産数量の目標を設定するものとし、また、その達成に努めなければならないこととしております。

第四に、国は、生産数量の目標に従って主要農産物を生産する販売農業者に対し、その所得を補償するための交付金を交付することとしております。 交付金の額は、主要農産物の種類別の標準的な販売価格と標準的な生産費との差額を基本としてその需要及び供給の動向を考慮して定める面積当たりの単価に、販売農業者のその年度における当該主要農産物の生産面積を乗じて得た金額とすることとしております。交付金の額の算定については、当該主要農産物の品質、その生産に係る経営規模の拡大及び環境の保全に資する度合並びに米に代わる農産物の生産の要素を加味することとしております。 また、農林水産大臣は、不正の手段で交付金の交付を受けた者に対してその交付金の返還を命ずることができることとしております。

第五に、現在予算措置として行われている中山間地域等直接支払制度を法制度上の措置として位置付けるべく、国は、中山間地域等とそれ以外の地域の農業の生産条件の格差を是正するための交付金の財源に充てるため、地方公共団体に対し、交付金を交付することとしております。

第六に、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律を廃止することとしております。

最後に、この法律は、農業者の方々の充分な理解を得て進めていくために、平成二十一年四月一日から施行することとしております。

以上が、この法案の提案の趣旨及び内容の概要であります。

何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。