ライブドア偽メール問題と民主党の対応

 国会議員がなぜ、あのような稚拙としか言いようのない質問を国会でしたのか、さらには、党執行部が、その質問を党の危機問題にまで高めてしまったのか、その理由が今でも私には理解できないままです。
  しかし、その理解ができないことが紛れもなく起こってしまった、というのがあの偽メール事件でした。

 昨年9月の総選挙。ライブドアの堀江前社長が立候補した広島六区へは、武部幹事長や竹中総務大臣が次々と応援に駆けつけました。特に、武部幹事長は「弟です。息子です」と熱のこもった応援を行いました。このような深い関係がマスコミでも大きく報道される中、選挙コンサルティング名目で武部氏の次男の口座宛に3000万円振り込むように指示する堀江氏のメールが永田前議員のもとに持ち込まれ、永田氏はそのメールを基づきに衆議院予算委員会で政府・与党を追及しました。しかし、そのメールは結局偽物であることが明らかとなりました。

以下は、その経過のあらましです。

平成18年2月16日 永田氏 衆議院予算委員会で質問。記者会見。
2月17日 永田氏、衆議院予算委集中審議で質問。東京地検否定コ
メント。総理はメールを「ガセネタ」と発言。
予算委員会のやり取り: 
永田議員「総理がガセネタと言った根拠は何か」
小泉首相「ガセは偽物、ネタは商品。『警察や報道関係でインチキな情報を言う』と辞書には出ている。いまだに事実に基づく証拠を出していない。ガセネタと信じてもおかしくない」
2月17日 堀江容疑者、弁護士にメール・送金ともに否定。
2月22日 前原代表 党首討論。「確証」発言。
永田氏、野田国対委員長に「進退」を預け、辞職の説得に同意。
2月23日 永田氏、鳩山幹事長に辞職の意思がないことを伝達。
2月28日 民主党、党声明でメールが本物でないことを認める。
永田氏党員資格停止、野田氏辞任、鳩山氏厳重注意。
3月15日 民主党・永田氏連名で、新聞に謝罪広告。
3月22日・24日 永田氏、衆議院懲罰委員会で、弁明。
3月31日 前原代表辞任表明。永田議員辞職願提出(衆議院4月4日許可)。民主党偽メール問題に関する報告書公表。

 民主党は、結局、ライブドアの堀江氏から武部衆議院議員次男に宛てたメールの真偽については「根拠の無い偽物」であり、3000万円の送金疑惑も「まったくの事実無根」であったことを認めました。名誉毀損への対応として、国会のしかるべき場で謝罪と報道機関への発表、党ホームページへの掲載に同意致しました。ついには、永田議員の議員辞職、前原代表の辞任へと追い込まれました。民主党への信頼は根底から揺らぎました。これでは政権政党にはなれないという思いが国民の間に広がったことも事実です。

 偽メール事件の経過で問題となったのは、民主党の未熟な調査能力、不十分なリスク管理体制、組織としての処理の遅れでありました。このような重大な情報の真偽を、議員個人としても党としてもきちんと確認できなかったことは、各議員の自主性を重んずる余り、「客観性をチェックする仕組み」を欠いてしまった結果でありました。質問技術の未熟さも指摘されました。個人名を出して疑惑を追及する際には周到に裏付けを取る準備が必要です。また、確証が取れていないが国民の関心の高いような問題を追及する際には、断定調を避ける工夫もできたはずです。永田氏は功を焦りすぎた感があります。

 メールの信憑性は、2月17日の小泉総理の予算委員会での「ガセネタ」発言で事実上決着していました。如何に発言の軽いといわれる小泉総理でも、一国の総理発言として、国会の場であのようにきっぱり明言した事実を、執行部はもっと深刻に受け止めるべきでした。
実は、偽メール事件を複雑にしてしまったのは、これ以降のメール問題に対する何とも不可解な執行部の対応にあったと言っても過言ではありません。

 私は、予算委員会での小泉総理の発言を聞いて、執行部が永田質問について与党、国民に向かって謝罪するのは一週間以内と確信していました。しかし、陳謝どころか、メールの信憑性に自信を持っているが如くの発言を繰り返すだけでした。特に、党首討論に臨む前に、前原代表の強気なコメントと、党首討論で国民が知りたがっている核心に触れることを避け、「証拠」も提示しなかったことは、民主党の主張することに対する信頼を大きく損なうものでした。謝罪が行われたのは、一ヵ月後でした。この時間の消費が与党の問題であったメール問題を民主党の深刻な問題に転化させたのです。

 あの事件は、民主党という一つの政党の事件ではない、一部の集団が起こした稚拙な事件だ、と言ってしまいたい気持ちがいまでも心のどこかに強くあります。

  しかし、偽メール事件が残した多くの教訓は大事にしなければなりません。なにより、偽メール事件があったことで、政治や行政における疑義を質すという国会議員の姿勢が萎縮するようなことがあってはなりません。

  そして、偽メール事件は民主党には何が不足しているのか、どう建て直していけばいいのか、といったことを党の議員一人一人が真摯に考える大きなきっかけとなりました。それが、民主党代表選挙へとつながっていったのです。 

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