福井日本銀行総裁の村上ファンド出資問題について

 福井日本銀行総裁が、証券取引法違反容疑で逮捕された村上世彰氏のファンドに対して、富士通総研理事長時代に1000万円を運用委託し、総裁就任後も保有していたことが明らかとなりました。金融政策の最高責任者と違法ファンドとの関係が続いていた事実は、大きな衝撃でした。ここで重大なのは、日本銀行総裁と国民・市場との間に疑義が生じてしまったことです。福井総裁に対する市場・国民の信認が損なわれつつあると同時に、日本銀行としての独立性も揺らき始めています。

  私は、民間人であった時代にファンドに出資したこと自体は問題ではなかったと思っています。問題は、日銀総裁に就任後も保有し続けたことです。日銀総裁としての金融政策上の判断と、保有している金融資産の生み出す利益が抵触する可能性がでてくるからです。

  福井総裁は、今年の2月に解約の手続きに入りました。これは、3月に行われた日銀の量的緩和政策解除の直前というタイミングになります。量的緩和政策の解除がされれば、株価が下落する恐れがあるという予想は、多くのエコノミストによってなされていました。そうした中で、2月の運用委託の解約は、量的緩和政策解除についての決定権限を有する日銀総裁が、解除を前に売り抜けを図ったと憶測されても仕方がありません。

 私は、福井総裁は、少なくともそういう考え過方で解約したとは思っていません。しかし、仮に事実でないにしても、そのような憶測を生じさせてしまうこと自体、大問題なのです。
そうした憶測だけでも、総裁の信頼性が崩れて来るからです。信頼性は、総裁がその職務を遂行する上で最も重要な資質です。また、総裁としての職務と自身の利益が一切遮断されていることは、日本銀行総裁の信頼性を確保する基礎的な条件です。

 国民生活に重大な負担を強いてきたゼロ金利政策解除のタイミングを計るこの重要な時期に、日銀に対する市場の信頼、金融政策の中立性に対して疑念が持たれることはあってはなりません。日銀総裁は、市場に大きな影響を及ぼす大変重要な立場であり、その一言一句が直に為替市場や株式市場に反映し、株価の形成など金融市場に大きな影響を及ぼします。日銀総裁が、民主的に選挙で選ばれてはいないにも関わらず、そのような重大に役割を担えるのは、高度な金融の専門知識を持ち、利害に左右されない中立の立場にあるとの信頼があるからです。そのような国民や市場からの信頼が、金融政策の中立性を確保するため日本銀行に独立性を与える基盤となります。

 また、日銀の内規は、世間から疑念を抱かれるような個人的な利殖行為は自粛すべきとしているにもかかわらず、当該日銀内部の服務規則には反していないので適切であったとの説明しか成されませんでした。総裁の行為が服務規則に反していないのは当然のことです。日銀総裁には、服務規則に反する、反していない以前に、疑義を生じさせないような御自身の体勢作りをする責務があると思います。そうした責務を認識しない、或いは、実行しない総裁は、総裁として不適格とされても仕方がありません。

 更に、日銀総裁が首相をはじめ関係大臣から擁護されるような状況は、日銀の独立性が損なわれつつあると思われても仕方のないものです。今回の福井総裁の対応によって、「日銀が政治との関係を気にし、重要な政策判断をしづらくなる」ことは、金融政策の中立性を損ない、日本の市場機能を回復し、金融を正常化する妨げとなります。委員会では、小泉首相や関係大臣からは、このような懸念に対し明快な答弁は聞かれませんでした。

 福井総裁には、村上ファンドに対する拠出以外にも、民間時代に社外取締役として就任していた富士通、商船三井、キッコーマン、三井不動産、新日鉄の株式を取得し、「動かさずに持っている」と答弁しています。株は自己の判断で売買することが可能であり、そうやれば、利益相反行為の疑いがでてきます。日本銀行のゼロ金利政策の下、長期間に渡って金利収入を得ることの出来ない状況に耐えている国民の目から見れば、「世間の感覚とズレテいる」と批判されても仕方ありません。

 6月15日の参議院予算委員会では、福井総裁に対し、出処進退の判断を求めました。ただし、政治の圧力で日本銀行総裁が変わったと受け止められ、かえって日本銀行の独立性に対する市場の信任が低下してしまうようなことは避けなければなりません。ここは、福井総裁ご自身が、誠実に判断すべきです。また、政府や日銀としても、夫人の保有分も含め毎年の資産公開を義務付けている米国の例を参考に、総裁を含めた役員全員の資産公開や在任中の金融資産の保有制限を行うよう必要な法改正あるいは内規の見直しを行うべきです。

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